——足す医療から、“引く医療”へ
「この薬、いつまで飲み続けるんだろう?」
「気がつけば、もう10年以上も同じ薬を飲んでいる」
そんなふうに感じたことはありませんか?
薬は、命を守るために欠かせない道具です。
しかし同時に、“使い方を誤れば健康を損ねることもある”、諸刃の剣でもあります。
だからこそ私は、医師として、こう伝えたいのです。
**「薬は“減らせるもの”でもある」**と。
本稿では、医療現場での実体験や科学的根拠を交えながら、
・なぜ薬が増えすぎてしまうのか
・薬を減らすことに、どんな意味があるのか
・どうすれば薬を“卒業”できるのか
を一緒に考えていきたいと思います。
■ 薬が“増えてしまう”のには理由がある
医療に携わる私たちから見ても、
**「いつの間にか薬が多すぎる状態」**は少なくありません。
とくに中高年になると、
・高血圧
・糖尿病
・脂質異常症
・骨粗鬆症
・胃薬や睡眠導入剤
といった薬が“足されていく”ケースが非常に多く、
**「1日8種類、朝昼晩」**なんてことも珍しくありません。
その背景には、
- 医療機関が分かれていて、全体を把握する人がいない
- 症状ごとに薬を出す“対症療法型”の医療
- 患者側も「薬が出る=安心」と思い込んでしまう
といった構造があります。
でもここで大切なのは、
「本当にすべて必要なのか?」という視点を持つこと。
■ 実例:血圧の薬を“やめた”50代男性
ある50代の男性。
20代後半から高血圧を指摘され、降圧薬を飲み続けていました。
しかし生活は多忙を極め、
朝食はコンビニ、夜は会食。
運動習慣はほぼゼロ。
あるとき、「このままでいいのか」と立ち止まり、
私のもとを訪れてくださいました。
初診時の血圧は上が150台。
しかし、
・朝食を納豆ご飯に変える
・夕食の塩分を控える
・週3回のウォーキングを習慣化
というシンプルな生活改善を半年続けた結果、
血圧は120台に安定し、医師の管理のもと薬を減量→中止できました。
「薬をやめられるとは思わなかった」と笑顔を見せてくれたとき、
私も医師として、心からの喜びを感じました。
■ 薬は「一生飲むもの」ではない
よく「高血圧の薬は一生飲まないといけないんでしょ?」と聞かれます。
確かに、一部の方には長期的な服用が必要な場合もあります。
しかし、薬を始める=一生続ける、という考え方は誤りです。
・生活が変わる
・体重が減る
・ストレスが減る
・食習慣が整う
といったことがあれば、
薬の量を減らしたり、場合によってはやめることも十分可能です。
つまり、「治療」には、“ゴール”があっていいのです。
■ 「引く医療」が、健康を底上げする
私たちが目指すのは、薬に頼ることではなく、
“身体の自己回復力”を引き出す医療です。
これは、まさに「足す医療」から「引く医療」への転換。
たとえば:
- 睡眠薬に頼らず眠れるよう、生活リズムを整える
- 胃薬を手放せるよう、食事とストレスの調整をサポートする
- 血糖値が下がるよう、運動と食習慣を支える
こうしたアプローチは、少し時間はかかりますが、再発を防ぎ、身体そのものを変える力があります。
薬を飲んで“ごまかす”のではなく、
薬がなくても“支えられる”身体へ。
それが、私たちが大切にしている医療の在り方です。
■ なぜ多くの人が薬を減らせないのか
薬をやめたい、でもやめられない。
そこには、いくつかの壁があります。
- 医師との関係性が浅い
→薬について気軽に相談できる場がない - 生活改善の方法がわからない
→「何をどう変えればいいのか」が具体的でない - 薬への依存的な安心感
→「飲んでいれば大丈夫」という思い込み
これらを一つずつ解きほぐすには、
“信頼できる医師との対話”が不可欠です。
薬を「処方するだけ」でなく、
薬との“付き合い方”を一緒に考えてくれる存在が必要なのです。
■ 医師の役割は、「いつまで飲むか」を一緒に考えること
私は、患者さんに薬を出すとき、必ずこう伝えます。
「これは“始まり”であって、ゴールではありません。薬を使いながら、いずれは卒業を目指しましょう」
これは、単なる優しさではなく、医療倫理として大切な姿勢だと考えています。
薬が必要なときに出すのは当然です。
でも、「なぜ今これが必要なのか」「どこまで続けるのか」を共有しない処方は、医療ではなく“作業”です。
そしてこれは、患者さんにとっても、“自分の治療を自分ごととして考える”ための出発点になります。
■ Truvitaの取り組み:「減薬」という選択肢を日常に
私は、主治医契約型のサービスとして、一人ひとりの健康に寄り添う医療を提供しています。
その中でも、「減薬のサポート」は、重要なテーマの一つです。
たとえば:
・処方薬の棚卸し
・お薬手帳のチェックと統合
・生活スタイルのヒアリング
・必要最小限の医療計画の設計
——そうしたプロセスを丁寧に積み重ねることで、
“飲まなくていい薬を手放す”ことを可能にします。
これは、“薬を出す医師”ではなく、
“薬を減らす覚悟のある医師”でなければできないことです。
■ 最後に:薬に振り回されない人生を
薬は必要なものです。
でも、“必要以上に”長く続けることが、人生の質を下げることもあるという現実も忘れてはいけません。
・複数の薬を飲み合わせることで副作用が出る
・飲み忘れや管理のストレスが増える
・「やめる判断」ができず、ずっと続けてしまう
そうした状況を防ぐためにこそ、
「今の薬、本当に必要ですか?」と問うてくれる医師が必要なのです。
薬は、健康を取り戻すための“杖”であり、
一生使い続ける“鎖”ではありません。
“薬を減らすこと”は、あなたの人生を取り戻す第一歩になるかもしれません。
—Truvita